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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)728号 判決 1981年8月26日

控訴人 矢菅繊維株式会社

右代表者代表取締役 矢菅倉造

右訴訟代理人弁護士 榎赫

被控訴人 センチュリー・リーシング・システム株式会社

右代表者代表取締役 藤田好雄

右訴訟代理人弁護士 小泉征一郎

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  原判決主文第一項は、当審における被控訴人の請求減縮により、次のとおり変更された。

控訴人は被控訴人に対し、金六八六万円及びこれに対する昭和五二年一〇月一日以降完済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は控訴棄却の判決を求め、その請求の趣旨を、金六八六万円及びこれに対する昭和五二年一〇月一日以降完済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員の支払を求める範囲に減縮した。

当事者双方の主張及び証拠は、次に付加、訂正するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

本件リース契約においては、契約が解除された場合にラディカルが被控訴人に支払うべき損害金額としてリース料総額より既払リース料を控除した額が定められている。しかし、リース料は元来リース期間全部の金利を含んでいるのであるから、期間の中途に解除される場合には将来のリース料のうち未経過金利相当分を控除して支払うべきが当然であり、また、契約解除時におけるリース物件の残存価値相当の価格をもリース物件利用者(以下「利用者」という。)たるラディカルに返還するかもしくは損害金より控除されるべきものである。しかるに、このような返還、控除を認めない本件リース契約は、利用者たるラディカルの一方的不利益のもとに被控訴人が利益をむさぼるものであって公序良俗に反し無効である。

(被控訴人の主張)

一  控訴人の主張は争う。

本件リース契約の対象であるコンピューターには汎用性がない。すなわち、コンピューターの価額にはハードウェアとソフトウェアの価額が含まれるが、両者はほぼ同額である。そして、ハードウェアは共通でもソフトウェアは各使用者ごとに異なっている。また、コンピューターの開発は日進月歩の勢いであり、その販売競争は熾烈を極めている。いったん使用されたなら、たとえ使用直後で機械としては新品同様であっても、他に転売は不可能である。したがって、いつたん使用されたコンピューターは、分解して部品としてしか利用できず、経済的な残存価値は零である。

他方、本件リース料算出の根拠は次のとおりである。すなわち、被控訴人は、リコー電子機器販売株式会社(以下「リコー」という。)より昭和五一年一〇月一二日、本件コンピューターを代金七〇五万円で買受けた。右代金の支払は同年一二月末日満期の手形でなされたので、右取得価額から二か月分の金利の複利控除をして同年一〇月三一日現在の価額を出し、さらに、五年間の固定資産税の現価一九万六三〇九円と五年間の動産保険料の現価三万八三五二円を加え、その合計額を年一五・四六パーセントの利率で五年間で回収する計算でリース料月額一六万五〇〇〇円を算出したものである。右の利率一五・四六パーセントのうち一〇・五パーセントは借入金の金利分であるから、利益分として上乗せした分は四・九六パーセントであり、この約五パーセントの粗利のうち、一般管理費が約三パーセント、純利益は約二パーセントである。本件リース契約についてみれば、投下資本残高に対する年二パーセントの金額の合計額約三五万円が利益総額であるにすぎない。

そして、本件のようないわゆるファイナンスリースにおいては、その実態は金融であり、被控訴人はいったん使用されたリース物件について販売ルートを持っているわけでもなく、これを引き揚げても廃品や部品としての価格での売却しか望めず、損害金計算の大勢には全く影響を及ぼさない。リース物件を返還しても残存リース料全額の支払を求める本件損害賠償約定は、利用者に対するリース料支払の心理的強制となっている。仮に、返還した物件の価額は控除する旨の定めがされた場合には、右の強制がはずれて利用者より即座に返還の申出がされる場合が多発し、その際物件の評価額をめぐっての紛争を生じ、リース会社に多額の出費を余儀なくされることが予想される。そうすれば、リース会社の利益巾は前記のごとく極めて僅少なのであるから、採算のとりえない事態に立ち至るおそれが充分にある。

このような理由により、本件リース契約において、物件返還後も物件価格相当額を返還もしくは控除することなく残存リース料全額を損害金として請求しうるという条項は充分に合理性のあることであり、被控訴人が一方的に不当な利益をむさぼるものとはいえず、公序良俗に反するものではない。

二  被控訴人は、ラディカルから引き揚げた本件物件を昭和五五年二月一三日リコーに代金四〇万円で売却した。よって、被控訴人は、右売却価格相当額である四〇万円を本訴請求額から減額し、控訴人に対し、金六八六万円及びこれに対する昭和五二年一〇月一日以降完済に至るまで約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

(証拠)《省略》

理由

当裁判所は当審において減縮された被控訴人の本訴請求はすべて相当であり認容すべきものと判断する。その理由は、以下に付加するほかは原判決理由一ないし三記載のとおりであるからこれを引用する。当審における新たな証拠調の結果をもってしても、右認定・判断を左右することはできない。

付加する点は、次のとおりである。

一  原判決一一丁表六行目に「右認定に反する」とある次に「原審及び当審における」を加える。

二  原判決一一丁裏五行目の次に以下のとおり加える。

「四 前認定事実によれば、本件リース契約においては、利用者が支払を停止し、支払不能となりもしくはその資産、営業、信用等に重大な変更を生じたことによりリース契約が解除されたときには、ラディカルは被控訴人に対し、約定損害金としてリース料総額より既払リース料を控除した額を即時に支払うことが定められている。そして、右約定は民法四二〇条所定の損害賠償の予定であるから、その額を増減することはできない。ところで、《証拠省略》によれば、本件リース契約におけるリース料算出の方法は、リース開始時点におけるリース物件購入代金の現価六九二万八二二六円に五年間の固定資産税の現価一六万六四八二円と五年間の動産保険料の現価三万三〇一〇円を加えた合計額に年一五・四六パーセント(うち借入金利率一〇・五パーセント)の利率を加算したものを五年間で回収する計算で算出したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、本件リース契約は、その契約自体より明らかなごとくいわゆるファイナンスリースと称せられるものであり金融手段としてのリースであるから、契約が中途において解除され、リース会社が利用者に対しリース料残額相当額を損害金として一括請求する場合には、右残額中より未経過利息相当額を控除すべきことが好ましいところではあるが、本件契約においてリース料算出の基礎となった金利の率、未払残期間等を考慮し、さらに本件リース契約が利用者たるラディカルの窮迫に乗じて締結されたものであるなど特段の事情の認められない本件においては、未経過利息相当額を控除することなくリース料残額相当額を損害金として支払う旨の合意をもって、ただちに公序良俗に反し無効であるとすることはできない。

また、《証拠省略》によれば、リース会社はリース契約を前記の事由によって解除したときは利用者よりリース物件の返還を受けるものと定められている事実が認められる。それ故、一般にリース契約が期間の中途において解除されリース会社がリース物件の返還を受けた場合には、リース会社は右物件につき期間終了までの残存利用価値を利得したものというべきであり、当事者間の衡平の原則に照らして右価値相当額はこれを利用者に返還すべきものと解すべきであり、《証拠省略》を検討しても本件リース契約中に右の返還を許さない旨を定めた条項は見当らない。してみれば、損害賠償の予定の約定中に右の点に触れられていないことをもって、本件リース契約が公序良俗に反し無効であるとすることはできない。

ところで、《証拠省略》によれば、被控訴人はおそくとも昭和五五年二月ころまでにはラディカルより本件コンピューターの返還を受けた事実が認められる。してみれば、被控訴人は右の日時に本件コンピューターのリース期間終了までの残存利用価値を利得したというべきであり、右価値相当額はラディカルに返還すべきである。しかし、本件全証拠を検討しても当時における右残存利用価値は明らかではない。尤も、前掲甲第一一号証、当審証人長野英明の証言によれば、被控訴人は昭和五五年二月一三日リコーに本件コンピューターを代金四〇万円で売却処分した事実が認められるから、少くとも右金額の限度において被控訴人の損害が回復されたものというべきである。

そして、被控訴人は当審において右四〇万円を本訴請求額より減額したのであるから、被控訴人の控訴人に対する本訴請求はすべて理由がある。」

よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条に従いこれを棄却し、当審における請求の減縮により原判決主文第一項が主文第二項のとおり変更されたことを明らかにし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村岡二郎 裁判官 宇野榮一郎 川上正俊)

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